著者は「やさしいビジネススクール学長」の中川功一氏。デフレ脱却もままならない低空飛行の続く日本経済にあって、そこへ生成AIなど超IT化やグローバリゼーションの大波が押し寄せ、企業経営にとって厳しさが増しています。本書はいかに経営の舵取りをするのか―何を守りどこを新たに攻めていくのか―格好の指南の書。
はじめに「教養ではなく、ビジネスに役立つ実践的な経営戦略の手法がわかる」とキャッチにあり、十数社の実例もあげられています。「経営学者」であり「経営者」でもある著者らしく、理論に裏打ちされた戦略的な思考方法と実践例に見る成功要因の解説は、とても理解しやすく説得力もあります。
大きく分けて、〈理論編〉では馴染みのSWOT分析(自社の強み・弱みなど現状把握)や3C分析(大前研一氏)、5要因分析(ポーター)、PEST分析(コトラー)、バランス・スコアカード(キャプラン)などが丁寧に図解されています。初学者に分かり易く、上級の経験者にも読み応えがするのではと思います。
企業の〈実例編〉も要領よくまとめられています。アサヒビール、掃除ロボットの日立、ユニクロ、任天堂、鳥貴族などのビジネスモデルが紹介されています。「他社の実践」をベンチマークし「自社に導入する」にあたっては、どこをどのようにカスタマイズするのか、ヒントとポイントがつかみ易い。
成長経済を終えて人口減少期に突入した日本経済。東京一極集中の弊害や地方経済の衰退も目立ちはじめています。国際的にはロシアのウクライナ侵攻など各国利害の複雑な絡み合いや地球温暖化への対応、足元をみると「働き方改革」や「人材の育成・確保」をどう進めるのかなど、企業の業種や規模、実績、置かれた状況などに応じて、戦略はさまざまです。加えて「兵は詭道なり」(孫子)との言葉もあります。戦略には周到な深謀遠慮も求められ、その実行には胆力も不可欠でしょう!
本書のような「経営戦略」関連の文献・データは、今日ますます必須のアイテムになっています。
イゴノミストの私としては「着眼大局・着手小局」-広い視野に立ち事業の核心を突く、先手必勝の果敢な積極策が求められていると思います。(画像は、愛知県豊明市HPより)