著者の橋本陽介氏によると「日本語の語彙の半分程度は漢語が使われている」そうです。発音は難しくとも、日本人の習得しやすさナンバーワンは中国語とのこと。氏によると、本書は普通のテキストにはない「裏側の話をする本」という。私はといいますと、高校の時、漢文の授業がなかなか好きにはなれなかったのを思い出します。「子曰く、巧言令色…」とか「国破山河在」などと、ひどく厳めしくまた文学的で取っつきにくかったのです。そんな印象を半世紀ぶりに吹き飛ばしてくれたのが本書。橋本氏がどんな「裏街道」を突っ走るか、ワクワクしながら読み進めます。私が興味深く感じたところから少しだけ紹介しますと……
①現代中国では漢字の改革により、「穀」は「谷」、「飛」は「飞」などと略された。「簡体字」が使われるようになった本当の理由とその結果は?②「語源」と「字源」の違い。「臭」の字源は「鼻+犬」、語源は「くさい」の「臭」を当てているが、なぜなのか。③「帽子」や「椅子」が意味のない「子」をわざわざ付けている謎は?④「アメリカ」は日本語で「米国」、中国語では「美国」となる、果たして?⑤「中国語には文法がない」?動詞が主語や目的語になる、過去形がない…一体どういうことなのか。⑥「汚名挽回」?挽回するのは「名誉」のはずだが。⑦ミニスカートの「迷你裙」は名訳か迷訳か?
言語にはその国の文化や歴史、伝統、習慣、自然などが丸ごと反映されているはずですから、言語を学ぶことはその国を理解する大きな一助になります。本書は、タイトルにある「不思議」な「謎を解く」ために、中国はどんな社会なのか、「言語」を通じて深く裏の裏まで真相/深層に迫っています。しかもユーモアも溢れています―「不老不死の仙人、なぜ老人か?」、「本日休講」ではなく「本日授業」を掲示する名物教授がいた…。
私は大学院生のころ、たまたま帰国子女の30歳くらいの男性に中国語を習う機会があり、四声などの発音の難しさを体験しましたが、中国語独特のリズミカルな響きの魅力などは今も忘れていません。今回手にした本は、私にとっても現代中国語に大いに関心を向けさせ、同時にわが日本語や英語などの他言語の特質をよりよく理解する手がかりにもなりました。 今日、国際社会に圧倒的な存在感をアピールする現代中国。「提供する知識と興味深い話題で勝負したい」と記す著者の意気込みが本書全体にみなぎっています。『中国語の不思議』は「中国の不思議」をも示唆しています。中国(語)の「ツボ」を押さえた出色の本書、自信をもっておススメしたい。(画像は「上野動物園」)