今年もだんだん押し詰まってきました。今年の文壇を振り返ってみますと、珍しく2025年上半期の「芥川賞」、「直木賞」の受賞作はともにありませんでした。27年ぶりのことだったそうです。年明けますと、下半期の受賞作が1月14日に発表の予定、どんな作家のどんな作品が選ばれるのか楽しみです。
ところで、そもそも作家になる/なれるには、とくに決まった資格試験などありません。「作家への道」はどのように用意されているのでしょうか。わずか2冊ではありますが参考になりそうです。
1『作家になる方法』(千田琢哉、あさ出版、2024年2月) 著者は文筆家
著者は自らを「文筆家」と名乗っていますが、著書累計発行部数350万部超の実績を誇る作家。「(この本を)手にしているという事実こそ、あなたが職業作家になる啓示なのだ」といわれると、読者はもうそれだけで作家への道を踏み出している自分を強く意識するでしょうね。
作家としてデビューしたいのであれば、ズバリ「正々堂々と新人賞を狙うことだ」(p.169)と著者は断言しています。これこそが「王道にして近道」(同)とのことです。
では、デビューするまでに、どのような準備と努力が必要なのか、著者は自身の体験を踏まえ、綺麗ごと抜きで細やかに手ほどきをしてくれています。
「(本を読んで)準備ばかりしていると、寿命が尽きる」「第1作目に、すべてを籠める」「プロローグは、ラブレター」などのアドバイスもあり、真摯な姿勢がにじみ出ていると感じました。
本書は、作家を志す人にとってまさに必読の一冊です。
2『作家の履歴書』(阿川佐和子ほか、角川書店、2014年2月)
本書は21名の人気作家のインタビューがまとめられています。千田琢哉氏の『作家になる方法』のあと、偶然、気が付いてこの本を読んでみました。
ここでは、3人ほどの作家のお話から、ほんの少し紹介しますと――
①角田光代氏(1967年生れ) 「作家になりたいと思ったのは小学1年生のとき」。小学生と大学生のとき、先生に褒められてどんどん書くようになった。初めて文芸誌の新人賞に応募し、最終選考で落選。その後、23歳で海燕新人文学賞を受賞。平成17年(38歳)には『対岸の彼女』で直木賞を受賞。
角田氏は、1日10キロ走ることもあるとのこと。私の読んだ角田著は『八日目の蟬』。
②北方謙三氏(1947年生れ) 高校のとき肺結核の診断、なんとか大学に入って書いた小説を同人誌に発表したら雑誌「新潮」に転載された。そこからが長く「書いても書いても採用されず…才能ないからやめろって言われてね」。それでも、毎日毎日原稿を書いた。35歳のとき『眠りなき夜』で日本冒険小説協会大賞受賞。平成12年直木賞の選考委員に就任。「砥ぎ魔で日常的に包丁を砥いでいます」とのこと。私は『三国志』を読みました。
③皆川博子氏(1930年生れ) 本を読むのは好きでも、プロになる気持ちはなかった。ただ、書きたい気持ちはどこかにあった。昭和45年(40歳)、『川人』で学研児童文学賞を受賞。昭和61年『恋紅』で直木賞。「いまもほとんど毎日、近所の本屋さんをのぞきます。…面白そうだと思うと手に入れておくんです」。「今は1日10行か20行書きます」。
私の読んだのは長崎の軍艦島を舞台にした『聖女の島』。
・3人の作家さんの簡略な紹介にとどめますが、ほかに夢枕獏、誉田哲也、小池真理子といった著名な方々のお話も興味深い。本書では、作品では窺えない作者の素顔がみえます。作家志望ではない方も大いに楽しめるのではと思います。
寒くなってきました。皆さま、どうぞご自愛ください。
