1『栗山英樹の思考-若者たちを世界一に導いた名監督の言葉』(栗山英樹、ぴあ、2024) 著者はファイターズのチーフ・ベースボール・オフィサー
著者の栗山氏は、北海道日本ハムファイターズの監督だった時、ドラフト1位で獲得した大谷翔平選手を前人未到の「投手と打者の二刀流」に育て上げました。本書から、大谷選手関連の言葉を一部紹介しますと―「大谷くんには本当に申し訳ないけれど指名をした」、「誰も歩いたことのない大谷の道を一緒につくろう」、そして「もう、翔平とは二度と野球をやりたくない。壊れないか、ただただ怖かった」。栗山監督の誠実で人間味あふれる言葉の数々、最後にもう一つ、「ここまできたら、魂だと思う」。2023年WBC、侍ジャパンを世界一に導いたのでした!
2『絹の襷―富岡製糸場に受け継がれた情熱』(稲葉なおと、慶應義塾大学出版会、2024) 著者は紀行作家、一級建築士
「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界遺産に登録されてから2024年で10周年を迎えました。これを節目に、富岡製糸場の世界遺産登録に至る経緯や、関係の人々の登録に向けて注いだ熱意と努力を改めて振り返ってみるのは、とても意義深いことだと思います。本書は、一級建築士でもある著者独自の視点から描かれ、歴史的建築物でもある富岡製糸場への深い愛情と敬意が、読者の胸を強く打ちます。巻末には詳しい関連年表も収録されています。
3『歌集 命を生きる』(小林功、角川書店、2021) 著者は群馬大学名誉教授
著者の小林先生とは、私立大学関係者の会合などでよくお会いする機会がありました。先生は、大学人(元群馬パース大学長)であり、医者(内科医)でもあり、さらに歌人でもあります。短歌に疎い私ですが、本歌集には、先生の気さくで温かいお人柄がにじみ出ており、明るいエスプリも感じられ快活な気分になります。「センセイは 大丈夫ですよと 声聴けど 除外例なき 人間である」(本書から)。「くすっと笑えて、元気がもらえる短歌です!」(帯文から)。ぜひ、本歌集をご鑑賞ください!
4『ゴーイング・メインストリーム―過激主義が主流になる日』(ユリア・エブナー、左右社、2024) 著者は戦略対話研究所(ISD)上席主任研究官 訳者は西川美樹(翻訳家) 解説は清水知子(文化理論/メディア文化論)
著者は、今日「急進的な異端派が政治的に無視できない存在」になってきており、「過激主義者」の台頭は一時的なものではないとの見解です。これは世界的な傾向であって、多くの国で「主流派の保守政党」や「政治的中道」が侵食されつつあるのはなぜか?著者は、その背景にある従来型政治指導者への一般国民の「不信感」や「失望」の理由、そして「過激主義者」の運動や主張について、丁寧な調査に基づいて明らかにしています。戦争や災害の多発する現代社会の「不穏な空気」の先に何が待っているのでしょうか、本書は一読の価値があると言えるでしょう。
5『その悩み、古典が解決します。』(菱岡憲司、晶文社、2024) 著者は山口県立大学国際文化学部教授
私たちは、古典といえば『源氏物語』や『徒然草』などを思い浮かべ、つい学校の授業の教材のように感じてしまいます。しかし、著者によると、古典には「悩み解決策が具体的に示されている」のです。人間の悩みは、現代人でも「古(典)人」でも共通しているのですね。「先の見える人生がつまらない」「集中力がない」などの答えを『雨月物語』や本居宣長の作品に求めるというのは、何か奇想天外のようで、実はとても現実的であることが分かります。本書は、新しい古典教育の在り方をも示唆しているようです。
※「医食同源」は身体の栄養、「医〈書〉同源」は心の栄養かなと思います。