【 医書同源 読書考⑧前編1~5】「ひと月10冊」『絵で巡るアルプスの名峰』ほか

読書考

1『絵で巡るアルプスの名峰』(塚本良則、白山書房、2024) 著者は東京農工大学名誉教授(農学博士、専門は森林水文学・砂防学)

関東森林管理局で、塚本先生と私はご一緒する機会がありました。ときには日光男体山や富士山などの現地視察に行き、治山・治水の重要性や土砂災害の危険性について教えていただきました。本書は、奥様と共に歩まれた先生のアルプス紀行、今年92歳の先生の作品です。心から敬意と祝福を申し上げます。「チロル」や「モン・ブラン」など、どれも軽妙なエッセイと見事な透明水彩画によって描かれています。手元に置いて眺めていますと、まるで至福の時間が止まっているかのようです。

2『賃金とは何か―職務給の蹉跌と所属給の呪縛』(濱口桂一郎、朝日新書、2024) 著者は労働政策研究・研修機構労働政策研究所長

ズバリ「日本における賃金とは何か」がテーマ。「上げなくても上がるから上げないので上がらない」などという世間の「迷論理」?では済まされません。著者は、明治から今日までの「賃金制度」の歴史を概観、次に「賃金の上げ方」について労使交渉の歩みをたどり、最後に「なぜ日本の賃金は上がらないのか」と問いを投げかけ、賃上げへの道筋を探ります。

3『ダイバーシティ・女性活躍はなぜ進まない?―組織の成長を阻む性別ガチャ克服法』(羽生祥子、日経BP、2024) 著者は株式会社羽生プロ 代表取締役社長

ダイバーシティ(多様性)は、現代キーワードの一つ。本書は、企業に「ダイバーシティ経営」を推奨しています。著者は「『男は働き、女は家を守る』というオバケのような価値観を引きずっている人がなんと多いことか」と現実を直視。このジェンダー不平等を「性別ガチャ」と表現して、この問題を克服しようと「ダイバーシティ経営」に取り組み、実績を挙げている先進企業の好事例をいくつも紹介しています。経営の改革は「仕事と家庭の良い両立」を実現する方策ともリンクしています。

4『サクッとわかる ビジネス教養 会計学』(國貞克則、新星出版、2024) 著者はボナ・ヴィータ         コーポレーションを設立。日経ビジネススクールなどで会計研修やマネジメント研修の講座を担当

会計には、社外向けの「財務会計」と社内用の「管理会計」がありますが、本書では前者を取り上げています。会計と言えば、特別な勉強をしないと分からないと思いがちですが、著者は「収支計算書を通して会計を学ぶ」という手法で、会計の全体像と仕組みを理解できると述べています。本書で学ぶことにより、会社の経営成績や経営姿勢、さらには将来の方向性をより身近に理解できるようになるでしょう。

5『絶対攻勢 規三生の突進』(山田規三生、日本棋院、2007) 著者は囲碁プロ棋士九段

本書は全編タイトルの「絶対攻勢」の精神で貫かれています。山田九段は、自戦解説を通じて、いかに最後の最後まで戦い抜くことが大切かを教えてくれます。「戦わずに勝てれば、それは手合いちがい」とのこと―歴然とした実力差があるわけです。著者の解説を頼りに、採録された棋譜を見ていくだけで、対局者双方の妥協しない姿勢が読み取れます。本書に勇気づけられ、棋力のアップは間違いありません。

※「医食同源」は身体の栄養、「医〈書〉同源」は心の栄養かなと思います。

タイトルとURLをコピーしました