1『楽しき囲碁人生―上達の秘訣と思い出の対局』(鎌田清、上毛新聞社、2019) 著者は上毛新聞社囲碁観戦記者
著者は地方新聞社の観戦記者であり、地元アマチュア囲碁界に詳しいです。本書には、「思い出の対局」として22局の観戦譜が収録されています。子どもから高齢者まで対局者に温かい眼差しで接する著者の姿勢に、思わず胸が熱くなります。観戦記の中には、私のふるさと「(佐賀)鍋島の化け猫騒動」の歌舞伎の紹介もあり、囲碁にまつわる話題もとても豊富。「上達の秘訣」を楽しく学べる一冊です。
2『世界は「見えない境界線」でできている』(マキシム・サムソン、かんき出版、2024) 著者はシカゴ・デポール大学講師 訳者は染田屋茂(編集者・翻訳家)、杉田真(翻訳家)
境界線は地図上だけに存在するわけではありません。方言を話す「等語線」で他者を区別したり、音楽や食事、衣服などの文化的違い、識別の困難な「国際的分断」など、「見えない境界線」の持つ力について、本書は世界中の多くの興味深い実例を紹介しています。読者の意識や関心の「境界」も広げてくれるでしょう。
3『未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命』(片山杜秀、新潮社、2012) 著者は慶應義塾大学准教授
「身の丈を超えた戦争」へ、日本国民はどのように駆り立てられていったのか?「日本人はなぜ天皇陛下万歳で死ねたのか」―「持たざる国」日本は、戦い「敗れずとも滅びに至る」という、不条理な国民精神はいかに醸成されたのか。著者は「未完の日本ファシズム」を説き、田中智学、中柴末純、小畑敏四郎、東条英機ら「戦争指導者」「有力ブレーン」らの言説の問題性、虚偽性を暴こうと迫っていきます。
4『パラダイムシフトでおさえる日本文化史』(田中結也、淡交社、2024) 著者は駿台予備学校日本史講師
受験生向け著作ながら、大人の学び直しにも役立ちます。著者の言うように、文化はパラダイムシフト(時代の転換)を映す鏡です。「宗教」「美術」「学問・思想・教育」「文芸・ジャーナリズム」の4つの分野をコンパクトに解説。身近な大河ドラマなどに接して本書を開くと、断片的な記憶が立体化し、より関心を深める手引きとなります。
5『過去への旅 チェス奇譚』(シュテファン・ツヴァイク、幻戯書房、2021) 著者はオーストリアの作家 訳者は杉山有紀子(慶應義塾大学専任講師)
本書は、表題のように2編から構成。ここでは、2023年、日本でも初公開された映画『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』の原作「チェス奇譚」(1942年作)を紹介します。本作は、ユダヤ人の公証人がチェスの世界チャンピオンと互角に対戦する緊迫した場面を描いています。ナチスに囚われた主人公は、独房に軟禁されている間、ひそかにチェスの棋譜を「独学」していたのです。狂気と現実の狭間で呻吟する彼は、ナチス・ドイツに対する無言の抵抗を貫きました。作者は、1942年2月22日、失意のうちに61年の生涯を閉じました。
※「医食同源」は身体の栄養、「医〈書〉同源」は心の栄養かなと思います。