【イゴノミクスの世界 Igonomics World 第7局】世の中に溢れる「様子見の一手」効用と限界

イゴノミクス

この頃の気ぜわしい世相から感じますのは「様子見の一手」が実に多いことです。SNSの発達もその背景にありそうですが、当事者は相手や世論の反応をみてから、どう対処するのがよいのか決めたいのでしょう。

と書き始めたところ、ひょいと日経新聞(10月21日)を広げてみましたら、「米中『ポーカーと碁』の戦い」と題した秋田浩之氏の論説が、「おぉ~」と目に飛び込んできました。冒頭「米中の駆け引きが再び、激しくなってきた」とあり、ポーカー(トランプ氏の短期決戦型)VS.囲碁(習近平氏の長期戦略型)の虚実の対決構図―その行方が巧みに表現されており参考になります。

さて、囲碁は、遠い昔には「占いの道具」とされていたらしいですが、やがて「戦略や戦術の具」へと「進化」してきたそうです。

「様子見の一手」は、機略に富む戦法の一つ。これを自在に打てるのは、アマチュアなら高段者でしょうか。昭和の時代、「火の玉宇太郎」のニックネームで親しまれた橋本宇太郎氏は「様子をきくは高級手段」と表し、次のような図を示しています。

この場合、黒△が様子見の一手。白はイ・ロ・ハの三通りの受け方があり、黒は、その受け方を見て対応していく、と説明されています。

囲碁では「高等戦術」ですが、世間においてはどうでしょうか。
「様子見の典型」と思われる事例を少し挙げてみますと――

①先ほどの日経・論説にも取り上げられたトランプ政権のいわゆる「相互関税」の交渉・運用の仕方
②国内政治では、国民向けの「メッセージ」で世の反応を探る政権や政党の手法、某自治体などの「不祥事案」を抱える首長の議会・世論対策など
③経済面では、景気対策の効果―金融政策なら金利の上げ下げを誘導したり、財政政策なら予算規模の大小や中味あるいは補正や執行の時期をアナウンスすることなど。

事柄の性質上、これらの「様子見」にはデリケートな問題もありますが、世に与える影響はとても大きい…。
もっとも、様子見というだけあって、場合によっては「無責任」とも「未練がましい」とも感じる人がいたり、あるいは第三者的には「ウンザリ観」も否定できないでしょう。

★ 次の一手
様子見の一手に、相手はすぐに反応するとは限らず、その手は食わないと別なところに身をかわして逆に様子を見てくるかも知れません。様子見には、虚々実々の駆け引きが潜んでいるようです。
相手の反応に、イザどう自分の最善手が打てるのか、「勝負」の帰趨を左右します。

◎「イゴノミクスの世界」格言と法則 
「様子見の一手」効用と限界
この手は、たしかに実際のビジネスや政治の世界などで、ここぞという場面では試されていますが…。
ただし、無闇に頼れば局面を打開する糸口にならず、かえって不評を買う愚策に堕してしまうリスクもあり、要注意。

参考資料
・ 橋本宇太郎『どんどん役立つ囲碁格言集』(山海堂、1997年、p.328)
※ トップ画像は「ヒカルの碁」(BANDAI CHANNEL)、囲碁をテーマにした少年漫画

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