【エコノゼミナール 資本主義って、何だろう?②―8】斎藤幸平『人新世の「資本論」』批判―死せるマルクス、現代人を走らす!〈コミュニズム神話〉

エコノゼミナール

「コミュニズム神話」―「第三の道」について

② コモン―「協同組合」の活動

(ゼミ長) 『人新世の「資本論」』の検討、8回目、先生、お願いします。斎藤説の「脱成長のコミュニズム」社会なんですが、その経済的な土台は「国有財産」なのですか。

斎藤さんは、なんでも「商品化」するアメリカ型資本主義と、なんでも「国有化」するソ連型社会主義の両者と対比し、「脱成長のコミュニズム社会」を提起してるけど、この社会の土台は「コモン」(common)だ、と考えているんですね。
もし「国有財産」なら、ソ連型になるんでしょ。これは、既存の国有型社会主義だよね。

(ゼミ長) では、「コモン」って、何でしょうか?

うん、斎藤さんは、「コモン」をキーワードにして、こう言ってる――
➀「第三の道としての〈コモン〉は、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、自分たちで民主主義的に管理することを目指す」(p.141)。担うのは、一般市民の「協同組合」活動を中心にした「社会運動」(p.335)。

②「(宇沢弘文氏の提示した)社会的共通資本」のような「インフラ」(インフラストラクチャー infrastructure)ともいえる「〈コモン〉の領域をどんどん拡張していくことで、資本主義の超克を目指す」(p.142)。

③「コミュニズムは、無限の価値増殖を求めて地球を荒廃させる資本を打倒する。そして、地球全体を〈コモン〉として、みんなで管理しようというのである」(p.144)。

④気候危機を解決するための「社会運動」は、先進国が自らの経済成長の犠牲を押し付けてきた「グローバル・サウス(新興・途上諸国)」と国際連帯して、世界規模で取り組まないといけない。「グローバルな大転換」(p.340)だ、とね。

(井上くん) 斎藤説は、ソ連みたいに「国有化をめざす」のと、どのように違うんでしょうか?

ソ連の場合は、革命で奪取した国家権力を使って、主な民間企業を国有企業に強制的に切り替えたんだったけど。
斎藤説では、「私的所有や国有とは異なる」(p.355)」公共の領域つまり〈コモン〉という「公共財」を「共同管理する」「社会的所有」(p.262)の領域を広げて「資本を打倒」し「資本主義を超克」していくってのね。
これが「第三の道」であり、それを拓くのが市民の「協同組合」活動だと言うんだけど。

(井上くん) そんな「第三の道」ってありそうですか?

いやぁ、どうだろうね。なんかモヤモヤっとした疑問を感じるなぁ――
➀これまで、そんな「第三の道」を通って、「資本主義を超克」し「コミュニズム社会」(斎藤さんは「参加型社会主義」とも呼ぶ)を実現した歴史、国や地域がない「道なき道」だし。

②公共の領域をどんどん拡張していくことは、「資本主義の枠内」(p.267)から始められると言ってるのに、なんで「資本を打倒」して「資本主義」を「変革」(p.213)するのかな?

③「国家に依存しない参加型民主主義や共同管理の試み」(p.338)とか「(協同組合のような共同管理は)国家の力を拒絶することを意味しない」(p.355)と言ってるけど、斎藤さんにとって「国家」って味方?友?敵?あるいは何だろう? 

④国際連帯と言っても「グローバル・サウス」の一員である中国インドなどと、どう連帯できるのかな?経済成長をめざす中国もインドも、それぞれ世界最大級のCO2排出国だよね。
一方で、開発途上国の「経済成長はもちろん必要だ」(p.102)と強調しているし、「成長と環境の両立の不可能」を説く斎藤説の根本的な矛盾を感じちゃう。

(村上さん) 私は、気候危機はこの現代社会で解決できたらいいと思うんですけど。環境の問題なのに「革命」とか聞くと、なにか違うなって気がしますが…

ほんと、そうだよねぇ。そもそも、気候危機って人類全体の問題だからね!
ぼくたちみんなで地道に取り組んでいく地球規模の課題なんだもんね!

斎藤さんは、環境危機克服の「社会運動」は「国家の力を利用できる」(p.218)と示唆しながら、「最終的に、危機の時代には、…剝き出しの国家権力がますます前面に出てくる」(p.282)なんて断言してる。
斎藤さんは、その「社会運動」が、環境危機の原因と考える「資本主義に終止符を打つ」(p.269)「資本主義に抗う『革命的』な行為」(p.276)だと、そう思っているからなんだろうね。

気候問題は国家を含めて人類社会の問題なのにね!

(村上さん)でも、やっぱり、私には、環境問題で資本主義を止めるって、なんだか、お門違いに見えますが、、、。

うん、うん、そうだねぇ。斎藤さんが「環境革命」(p.323)なんて書いてるのは、イミシンだなぁ。

語弊があるかもしれないけど――
今みんなが注目している「環境・気候問題」を捉えて、それを自分の想像する「未来社会」とつなぐ構想が先にあって、「革命的なコミュニズムへの転換」(p.354)という「第三の道」を思い付いたんだろうね。

それこそ、そんな「第三の道」がもっともらしいのは、かつてのロシア革命や中国革命のつくり出した「コミュニズム神話」(社会主義神話)のなせる業!なんだと思います。

(ゼミ長) 検討の回数を重ねて、だんだん『人新世の「資本論」』の性格が明らかになってきました。私は、脱炭素化に向けた科学技術の発展に希望を持ってます。「ピンポーン、パンポーン♪」(先生:いいね!次回テーマは「協同組合」の役割) 

画像 SDGs「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」国連広報センター

タイトルとURLをコピーしました