◆ 「コミュニズム神話」―「第三の道」について
➀ いまどき「社会主義国家」なんてあるのだろうか?
(ゼミ長) 『人新世の「資本論」』の検討、7回目、先生、お願いします。
斎藤さんは、アメリカに代表される「資本主義」は成長体質で気候問題の根本原因だから、資本主義に「終止符を打つ」と主張するけど、かつてのソ連みたいな「社会主義」も「成長志向」体質なのでダメだと考えている。
だから、米ソのどちらでもない「第三の未来社会」として「脱成長のコミュニズム社会」を展望しているんだよね。
(高橋さん)斎藤さんは、旧・ソ連や中国はどのように理解されているのですか?
そうですね、、、。世界初の社会主義国・ソ連と戦後生まれた中国、この両国の社会主義経験をどのように評価したらいいんだろう、、、。人類未経験の領域に挑戦した「社会主義」だからさ。
ノーベル経済学賞のP.A.サムエルソンは、中国の使う「社会主義市場経済」の言葉を聞いて「悪い冗談はよしたまえ」と一笑に付したらしい。
「社会主義市場経済」とは「社会主義体制のもとでの資本主義経済」のことだもん、困っちゃうよね、、、。
斎藤さんは、かつてのソ連について「国家資本主義」の「代物になってしまった」(p.352)と書いてるけど、現在の中国についてはそれらしい話がないねぇ。中国こそ「国家資本主義」の代表選手と思えるけど。
中国について、斎藤さんは、「効率の良い、平等主義的な(?)気候変動対策を進める可能性がある」と期待して、「中央集権的な独裁国家」として「気候毛沢東主義(?)」(pp.114-115)と呼んでるよ(太字と?は引用者)。
(高橋さん)独裁国家は、効率が良くって平等主義なんですか?信じられないです。
そう、そう。独裁政治には人権問題も資源の浪費もつきものって思うなぁ。
ソ連の場合はね、その中央集権の独裁国家として「国有企業」を土台に「計画経済」体制が続いてきたよね。
ロシア革命直後1920年代の一時期のいわゆる「ネップ政策」(市場経済の利用)はともかく、それ以降、「国家資本主義」をとった史実はないし、「中央統制当局」(ゴスプラン)による「計画経済」(指令経済)を一筋に貫いてきたんだった。
1980年代になり、アメリカとの核軍拡競争・経済競争に敗れたソ連。「穏健派」のゴルバチョフが登場して、初めて「市場経済の導入」によるソ連の再建に向け、ペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)に乗り出したんだけど、時すでに遅し!?
そのゴルビーさんは激しい共産党内の権力闘争の渦に巻き込まれて失脚、ソ連はあえなく自滅。ここで代わって出てきたんがロシア連邦初代大統領、ボリス・エリツィン。そして当時、彼が首相に任命したのが、なんとKGB(諜報機関)出身のプーチン現大統領だったんですよね。
ソ連の末路は、まさしく「社会主義神話」、「コミュニズム神話」のドラマティックな崩壊だった!
マルクス、エンゲルスが人間社会の歴史は「階級闘争の歴史」と宣言したんだけど、実際は、生身の人間同士の食うか食われるかの非情な「権力闘争の歴史」と言うか「路線闘争の歴史」なんだ。
(松尾くん)中国についても、もう少し触れて欲しいんですが、、、。
ソ連の崩壊で、もっとも恐怖に襲われたのが中国共産党の指導者たち。
そこで70年代から始めていた鄧小平の「改革開放」政策をさらに加速。内に企業改革、外に市場開放の「二刀流」で、高い経済成長をめざす「社会主義国家」の「市場経済(=資本主義経済)」という「国家資本主義」の典型国になった。
金融・鉄鋼・エネルギー・情報通信など基幹産業を担う巨大企業の大株主は中国政府だから。かつて社会主義をめざした共産党だけど、ソ連の自滅で行き場をなくしちゃって「名ばかり共産党」になったみたいやなぁ。
中国は、国家資本主義として、GDP世界2位の経済大国になって、世界最大のCO2排出大国(世界の約30%)にもなったけど、大量の化石燃料を使いながらいかに猛烈な経済成長を追求してきたかだね。
まぁ~、そんな中国なんだけども、21世紀になって、大規模な不動産バブルの発生と崩壊、それに少子高齢化も進むなか「経済成長」に幕が下りたってことじゃない?
ぼくが何を言いたいのかと言えば――
今では、改革開放の中国は「脱成長の国家資本主義」になってきたのじゃないかな、中国式の「特色ある社会主義」神話・「コミュニズム神話」が崩れてきたんではということですよ。
(ゼミ長)「共産党」を名乗るなら、もしかして「科学的」な?判断をするのでは、と「期待感」を持つ人もいるんですかね?(先生:うん、それも神話か幻想だね!) 「ピンポーン、パンポーン♪」…「昔の名前で出ています♪(小林旭)」
画像 世界の温室効果ガス(90%がCO2)排出量(2018年) 資源エネルギー庁