【エコノゼミナール 資本主義って、何だろう?②―3】斎藤幸平『人新世の「資本論」』批判―死せるマルクス、現代人を走らす!〈資本論神話〉〈資本論ウォッシュ〉

エコノゼミナール

(ゼミ長) 『人新世の「資本論」』の検討、3回目、先生、お願いします。

はい、ぼくの用意した三大神話―「経済成長神話」「資本論神話」「コミュニズム神話」の二番目です。では、始めよう。

「資本論神話」―「資本主義」の認識をめぐって

①「資本」と「資本主義」は、同じなのか?

(田中くん)「資本」と「資本主義」は、同じものと思ったりしますが、ちゃうんでしょうか?

おぉ、いい疑問だね!よう聞いてくれたなぁ。
今まで、ぼく自身、そんなのどうでもいいじゃん!ってほとんど気にしないでいたけど、斎藤さんの本書に接して、この両者、カテゴリーはどうも違うんじゃないかなと感じたよ、、、。

海外のエコノミスト、経済学者を含めて、「資本」と「資本主義」を意識的に明確に区別して使っている人は、まず、いないみたい、、、。

「資本主義」とは、「資本」だ!「資本の論理」だ!と、えっ、ホンマかいな?
ぼくはね、そんな見方は「資本論神話」だと思うよ。いまだ『資本論』によって現代社会を捉えられるという考え方だから!

ぼくの勝手な造語で「資本論ウォッシュ」と呼んだりしているよ。なぜって、『資本論』を踏まえたように見える/見せる、からでもあるのでね。

(田中くん)斎藤説では、どのように「資本」とか「資本主義」とか、理解されているんでしょうか?

うん、斎藤さんは、資本主義は終わらない限り、つねに「成長するもの」と考えてる人だから、どうなんだろうな?

(高橋さん)どうしても「成長」がポイントですね。斎藤説は、「経済成長のない資本主義は考えられない」と考えていますけど。

うん、そもそも「資本主義」とはいったい何だろうか?その前に…
斎藤さんは、まず「資本」をこう定義している。
それは――
「資本」について「資本は無限の価値増殖を目指す」(p.37)もの、「資本とは、価値を絶えず増やしていく終わりなき運動」(p.132)と書いています。

(ゼミ長)その価値増殖」というのは、「お金がお金を生む」ってことですか?

うん、お金(貨幣)が資産(資本)として運用され、何らかの利益を得て増えるってことだよね。
こうした資本の定義は、『資本論』を確かめると、その第1巻第2篇のとくに第4章「貨幣の資本への転化」を参考にしているみたい。

ちょっと見てみようか――
「資本としての貨幣の流通は、自己目的(Selbstzweck)である。何故かというに、価値の増殖は、ただこのたえず更新される運動の内部においてのみ存するのであるからである。したがって、資本の運動は無制限である」(第4章第1節「資本の一般定式」)とね。

(ゼミ長)うわっ、訳文もすごく威厳に満ちてますけど、なるほど、そうなんですね!資本主義についてはどうですか?

それがね、斎藤さんは、資本の定義を使って、そのまんま資本主義も定義してる。
というのは―
資本の無限の価値増殖」(p.291)が「無限の利潤追求」・「無限の経済成長」となる。つまりは、「資本の自己増殖を目指す資本主義」(p.118)、「無限に利潤を追求し続ける資本主義」(p.300)となり、「無限の経済成長を追い求める資本主義システム」(p.117)となるんですね。

このように、「資本」イコール「資本主義」と解釈されてるんだけど。『資本論』に、そんな資本主義の定義はどこ探してもないねぇ。(『資本論』での「資本主義」(Kapitalismus)の使用例は、次々回 ②―5で触れるけど、そこでも定義されているわけではないよ)                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

そんな見方は「資本論神話」に囚われた「資本論ウォッシュ」第一弾!
『資本論』には、「資本」=「資本主義」とは、書かれていないからね。
まぁ、大した違いはないんじゃない?と思うかも。丸い卵の中心部には黄身がある、その黄身を指して卵と言うようなもんだし、とね。

でも、コトは重大だよ……斎藤さんは、地球温暖化・気候危機は「価値増殖」による「成長体質」の「資本主義」の枠内では解決不可能と言いたいんだから。

手元にあった別の本だけど、これも「資本論神話」の世界や――

「この段階で(=13世紀!)資本の自己増殖が正当化され、資本の自己増殖運動と定義される資本主義が始まった」(榊原英資・水野和夫共著『資本主義の終焉、その先の世界』p.62、太字、括弧内は引用者)とあるよ、、、。

ずいぶん早くて13世紀、すごいな、中世のヨーロッパで資本主義が始まったんだって!(資本主義資本主義社会は違うってわけかな!?)

(ゼミ長)へぇ~、そうなんですか、他には、どんな論者がおられますか?

えーっとね、ちょっと見るだけでも――
①「資本主義は、資本の拡張運動だ」(佐伯啓思氏)
②「資本の価値増殖を求める資本主義」(的場昭弘氏) 
③資本論は「資本を自己増殖する価値の運動体と捉え、資本主義の下では資本家に富が集中し、格差が広がる」と説く(名和高司氏)
④「資本主義は、資本の論理が中心となって動く社会」(佐藤優氏)
⑤資本主義で「利潤を得るというのは『資本の論理』からすれば常識」(中谷巌氏)
⑥「拡大傾向を持つ資本主義」(B.ミラノヴィッチ)
⑦「あくなき資本の蓄積こそ、資本主義の存在理由」(I.ウォーラーステイン)
――というように、ムチャクチャ多いよ(書名は略)。

資本論ウォッシュ」がこんなにもラッシュだとは!
資本論ウォッチャー」変じて「資本論ウォッシャー」と化す!

ただこの段階で、急いで、少しだけ注意しておきたいことがある。
それはね、資本の自己増殖って言うけど、もし「自己」が「自動的」または「自律的」みたいな意味合いだったら、問題でしょ。

なぜか、「資本」は、その担い手=運用する人間がいるからこそ、増えたり減ったりもするからさ。
企業なら独自の文化や経営理念のもとに動いているよ。
今、トランプ政権の再登場で、株価は世界規模で激しく乱高下してるよね。泣いてる企業もあれば、うまく対応した投資家もいるでしょう。

資本の論理」っていう使い方もどうかなぁ。「論理」だと、人間の自由意志を拒絶する強制的な「法則性」を表しているように聞こえちゃう!もとは、マルクスの「自己目的」という、資本擬人化ないし人格化した哲学っぽい表現からきているんだろうね。

ところで、さらに、「資本主義」または「資本主義システム」について、斎藤さんは、たとえば……

(ゼミ長)あっ、時間で~す。「ピンポーン、パンポーン♪」(先生:仕方なかとぉ、、、自然法則にはようかなわんわ、また次回!)

※画像は、日経平均、TBS  NEWS   4月14日
※マルクス『資本論』は、向坂逸郎訳(岩波書店、1967年)を使用、
ドイツ語版はMARX-ENGELS WERKE BAND23 DIETZ  VERLAG  BERLIN、1969を使用

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