◆ 「コミュニズム神話」―「第三の道」について
③「協同組合」の役割
(先生) 猛暑続きだけど、みんな、元気でいいね!熱中症に気を付けてるかな?ぼくは、昨年、ひどい熱中症で、頭重感・吐き気に襲われ死ぬかと不安になったのを思い出すよ、、、。
(ゼミ長) 予防第一!ですよね。マイボトルを用意して、では、『人新世の「資本論」』の検討、9回目、お願いしま~す。改めてですが「協同組合」とは何でしょうか?
はい、協同組合は、斎藤説を支える重要なキーワードになってるけんね。
協同組合というと、ぼくたちにとって身近な大学生協のほか、宅配サービスも提供してくれる地域生協とか、農協(JA)、信用組合なんかもあるよね。
組合活動は、参加メンバーがお金を出し合い協力して運営する仕組みで、暮らしを支えるのに役立ってますね。
斎藤さんは、スペインのバルセロナ市民による「まちづくりプロジェクト」を協同組合型の運動として注目している。それは「太陽光発電や電気バスの導入」など「インフラ改革」で「脱成長」を目指しているらしい。
この協同組合型の社会運動を「バルセロナの革命的意義」(p.328)と評価して「脱成長コミュニズム」の「『参加型社会主義』への転換に向けた第一歩」(p.335)と考えているんだよね。
④「協同組合」のアイデンティティ
(松尾くん)「協同組合」はどこにでもあるとですね。ロシア革命の時や中国ではどんな存在だったのですか?
うん、ちょっと振り返ってみよう――
「生活協同組合」や「消費協同組合」、「生産協同組合」など、確かに今ではどこにでもあるけど。もともと自発的な「市民活動」から生まれたものだし、「資本主義体制を突破する」ようなもんじゃないよね。
組合活動って、中小規模事業の組織された活動にアイデンティティがあるんでしょう。だからこそ、小回りが利くし資本主義の中でも「社会主義」の中でも共存している/いたんですよ。
ソ連が誕生した初期段階では、一気になんでもかんでも「国有化」するのは無理や、との判断があったみたい。とくに生産性の低い農業では、「コルホーズ」(集団的所有)が奨励されたんだった。商業の分野でも「協同組合」活動が重視されていたんだよね。
だからさ、「社会主義」経済において「協同組合」が補完的な役割を果たしていた、と言えるかな。こうした働く人たちの集団化も、とても大変で困難をきわめたらしいけど。
中国でも同じ。基幹産業の工業と違って国有化の難しい農業などでは「人民公社」と呼ばれる協同組合みたいな集団的組織が作られていた。今ではそうしたものが「国家資本主義」を支える「郷鎮(ごうちん)企業」(農村部の集団企業)に変わってきたけど。
歴史を振り返ると、協同組合は「資本主義社会」でも「社会主義社会」でも、社会発展の脇役であって主役を演じてきたわけではないことが分かるよ。
(田中くん)マルクスは「協同組合」をどない見てたんでしょうか?
斎藤さんは、『共産党宣言』(1848年)より20年ほど後の『資本論』(1867年)刊行以降の「晩年のマルクス」に注目したらしく――
マルクスは、「生産力至上主義」の「進歩史観」(唯物史観)を捨てて、「脱成長型のコミュニズム」の構想にたどり着いた。そして、この「脱成長コミュニズム」社会の主体は「協同組合」である、と考えていた――これが「新しいマルクス像」(p.141)だ、とね。
そこで確認したいけど――
斎藤さんの言う「晩年のマルクス」を代表する著作は『ゴータ綱領批判』(1875年)。
これ見ると、マルクスは、共産主義の高い段階では「生産力も増大」し人々は「必要に応じて」富(生産物)を受け取り、自由で豊かに平等な生活ができる、といったそんな社会を描いてるよ。
マルクスは、晩年でも「唯物史観」―生産力の高まりで、古代社会→封建社会→資本主義社会→社会主義社会(共産主義の低い段階)→(高い段階の)共産主義社会へ進む、という社会発展の歴史観―を捨てていない。
もし、この歴史観を捨てちゃうと、マルクス自身、人類史の全体が説明できなくなるもんねぇ。
マルクスのその頃の「協同組合」観を見ておくと――
「国際労働運動」に関わりながら、「協同組合運動は、階級対立に基礎をおいた現代社会を改造する力の一つ」と書いてるけど、「協同組合は資本主義社会を改造できない。国家権力が生産者の手に移る変化が必要」とちゃんとクギを刺していたんだ。やっぱりマルクスは革命家だよ。
斎藤さんは、いろんな組合活動を「コミュニズム」への道と思っている。
でもねぇ、電力や教育といったコモンのインフラ系から「どんどん拡張していく」という、その道筋はとてもじゃないが見えてこないなぁ。
それどころか――
足元をみると、今日では、医療や教育、農業の分野だって「株式会社」組織がジワジワと広がってきているんじゃない?
労働組合も経済のソフト化・サービス化の影響かな、世界規模で組織率が下がってきてるし。
(ゼミ長)「協同組合」って仲良しグループの活動みたいで、政治的な運動じゃないみたいですね。「ピンポーン、パンポーン♪」
(先生:うん、そうや!ぼくも生協から週一回、配達してもらってるよ。次回テーマは「第三の道」の評価)
画像 農協(JA)のマーク