【エコノゼミナール 資本主義って、何だろう?②―6】斎藤幸平『人新世の「資本論」』批判―死せるマルクス、現代人を走らす!〈資本論神話〉

エコノゼミナール

「資本論神話」―「資本主義」の認識をめぐって

⑤「資本主義自然消滅論」?

(ゼミ長) 『人新世の「資本論」』の検討、6回目です。先生、お願いしま~す。

はい。資本主義って変幻自在でものすごく柔軟で広がりのある概念だ、とぼくは思うんだ。
「資本主義は資本の論理」に貫かれているといった見方じゃ、とてもシンプル過ぎて、前回見たようないろんな顔を持つ「現代の資本主義」には迫れそうにないよね。

『資本論』のレンズじゃなくて、現代のぼくらの眼で、「資本主義」も「社会主義」も根本から見直さなくっちゃ!

(村上さん)ところで、米ソ冷戦の終結で、資本主義世界のアメリカ一極体制も終わったんでしょうか?これは、何か重大な意味があるのでしょうか?

うん、そうだと思うよ。ハッキリ言ってさ。アメリカはもう、各国がめざす資本主義の「お手本」じゃなくなったってことでしょ。
かつて「さすがアメリカ!」って思われていた新自由主義とか市場原理主義なんて、最近はほとんど聞かなくなったしね。

お金持ちから富が貧困層に滴り落ちる(トリクルダウン)っていう「純粋資本主義」のアメリカ?まさかそんな、、、とんでもない話だよ!
「お手本」の国が混迷・危機に陥ってるってなるとね、そりゃ~、重大事件だよ、、、。かつてのソ連の体制崩壊の危機とどっか重なるところがありそうね。

1980年代、レーガン時代に「税率を下げると逆に税収が増える」とかいう、とんでもない「ラッファー・カーブ」説が一世を風靡。高所得層ほど減税のタナボタ。トップ所得層の税率は70%からドーンと28%まで大幅に引き下げられたし、、、。

いま、その巨大な反動がきてる。とくに低所得層の支持を集めてトランプ政権が再登場、二度目は悲劇になるのか、それとも喜劇なのか?

資本主義はいろんな国や地域で、違った文化・習慣、歴史、自然なんか、万華鏡みたいに映してるんだよね。ホンマに、「資本主義って、何だろう?」と、つくづく思う。それをさぁ、な~んか「資本主義」の言葉を使えば分かるなんてねぇ、、、。ぼくら、それでヘンに満足しちゃってるんじゃないの?
まったく「いつでも・どこでも・なんでも資本主義」だね!

(井上くん)先生、もう現代はマルクスの生きていた産業革命の頃とはぜんぜん違いますよねぇ。
今、アメリカって、どうなっているんでしょうか。何が何だかワケ分からないです、危うい「トランプ資本主義」みたいなものになってるのかなと、、、。

そうだね。資本主義ってさ、もはや〈実体〉というより、な~んか形而上学的な存在――人間の創り上げた観念の産物、いや得体の知れない妖怪かも!

でもね、こんな人もいるよ。ほら、ジェレミー・リフキンだけどさ、「限界費用ゼロの社会」なんて大胆なこと言ってる。そんな追加的な生産コストがゼロになるんだったら、カネかけないで次々と作られてさぁ、モノ溢れる「天国」みたいな社会だよ。斎藤さんの「脱成長」どころか、「超成長」の〈理想郷〉って感じじゃない?

それはさすがに信じられへん。誇張したんやろうけど、だけどねぇ――
デジタルコンテンツの無料配信みたいな「有料からフリーへ」とか、「所有からシェアへ」、「物質(ものづくり)から非物質(ソフト化)へ」といったパラダイムシフトの流れは、確かにあるからね!

世の中は、まるで芭蕉の「不易流行」―不易の人間社会は続くんだけど、流行の資本主義は変わっていく。いや、なくなる可能性すらあるってのかな、「資本主義自然消滅論」もいよいよ現実味を帯びてきたんかもね、、、。

アメリカは、莫大な国際規模の財政負担にあえいで、覇権国家としての力も怪しくなってきてる。リーマンショック(2008年、金融崩壊の危機)をなんとかしのいだけど、あれからずっと必死で生まれ変わろうとモガイてるんかも、、、。

ぼくはね、トランプ政権は、基軸通貨・ドルの超大国として余力がある間に、強大なアメリカの復活を夢見て、国際社会に「勝負」を挑んでいるんだと思う。
いやいや、アメリカは、本音では、中国の勢力拡大を阻止したいんだろうね。パリ協定?地球温暖化?そんなん全く眼中になし。対中覇権争いを仕掛けたように見えるんだよね、、、。

他の覇権国の台頭を許さない、との戦略は、米ソ冷戦時代、大統領補佐官を務めたりした国際政治学者・ブレジンスキーが力説してたと思うんだよね。落ち目のアメリカやけど、その頃とちっとも変ってないなぁ。焦りだけは感じるけど、、、。

トランプ政権らしいというか、「民主主義」でも「自由主義」でもなくて、「経済兵器」の「相互関税」をチラつかせてとはね。戦前の保護貿易じゃあるまいし、、、世界は暗黒の「無間地獄」に突き落とされちゃうんかいな、、、。

ノーベル経済学賞の主流派経済学者・クルーグマンさえ、トランプ氏の政策は「完全に狂っている(completely crazy)」とあきれはてているよ。万策尽きたアメリカ資本主義。覇権どころか、もしかしたら「資本主義の終わりの始まり」かも知れないな!

やっぱりね、複雑に絡み合った国内外情勢、貿易関係からして、斎藤さんの説のような「古典的資本(主義)論」というか「利潤追求と経済成長の資本主義」といった一本槍の見方ではね、今を読み解くのは難しくなってるんじゃない?

あのねぇ、タイムマシンで産業資本主義時代のマルクスを大英博物館に訪ねてさ――
そんなこんなの覇権争奪の世界、超高度工業社会、そして生成AIやメタバース(仮想空間)、クリプトカレンシー(暗号資産)の世界とやらを見せてあげたら、腰を抜かすだろうね。(笑)

斎藤さんによると、ぼくらの社会はこれから、「アメリカ型新自由主義とソ連型国有化の両方に対峙する『第三の道』」を拓いていくことになるらしい、それは「気候危機」(地球温暖化)を「解決」する道という。

(ゼミ長)そうなんですか。「資本主義でもない」、「社会主義でもない」前人未到の未来社会なんて、いったいどんな社会なんでしょうか?「ピンポーン、パンポーン♪」(先生:次回から、コミュニズム神話ばい)

※画像「不易流行」 Discover Japanより

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