【エコノゼミナール 資本主義って、何だろう?①】「新しい資本主義」か「資本主義の新しい課題」か? 松島斉『サステナビリティの経済哲学』批判

エコノゼミナール

今回のポイントはー 
①「新しい資本主義」VS.「資本主義の新しい課題」
②  よみがえる「渋沢資本主義」(富岡資本主義)! 

(ゼミ長)今回は、エコノゼミとして「資本主義って、何だろう?」の一回目です。田中くん、口火を切ってもらいましょうか。

(田中くん)『サステナビリティの経済哲学』(松島斉、岩波新書、2024年)を読んでいたんですが、この本には「新しい資本主義」のキーワードがあります。ついでに言えば「新しい社会主義」像も書かれています。

(先生)へぇー、そうなんや。「新しい社会主義」も?
岸田前政権の金看板が「新しい資本主義」(これは「成長と分配の好循環」をめざした)だったけど、松島説の特徴は何ですか?

(田中くん)はい、松島さんが最も言いたいことのよく表れているのは、こんなところやと思いますが――

めざす方向は、「生産者、消費者、投資家など」の「世界市民が、私的利益の追求だけでなく、倫理的動機に基づいた経済行動を積極的に行うシステム」なんだそうです。細かな説明は本書に譲りますが…。

要するに、「私的利益」と「倫理」が結び付いてこそ、企業は自己の「社会的責任」を果たせるけど、その自覚のない無責任経営の企業は倒産する、つまり「サステナビリティ」(永続性)が保証されることはない――これが「新しい資本主義」である、と。

(先生)ふむ、ふむ!もっともらしいなぁ。「岐路に立つ資本主義」って言いたいのかな?イエローカードの「黄路に立つ資本主義」ってこと?

だけどね、とっくの18世紀、あの『国富論』のアダム・スミスは『道徳感情論』を書いて「経済と倫理」の両立の重要性を説いていたんだから、すごいよね!もっとも、フェアな騎士道精神の伝統がもともとあったみたいで。

日本では、明治期に、渋沢栄一が「利益」には「私益」(個人)と「公益」(社会)があると考えて「道徳経済合一(ごういつ)」説を唱えているじゃない。欧米から日本に近代資本主義を移植した「渋沢資本主義」論の神髄やと思う。

これまで軽視されてきた、あるいは「忘れたふり」をしてきた、そうした「公益」「倫理」の精神・行動が、今まさに、改めて本格的に問われ出したんやと感じます。

アメリカのP.ドラッカーが渋沢を「経営の本質が社会的責任にある」ことを見抜いた偉大な人物と評したこともよく知られてます。

松島さんの「倫理的動機に基づいた経済行動」は、たんに「公益」と表せば分かりやすいやろ。ぼくは、どうもペダンティックな表現は読みづらく肌に合わんなぁ。たしか「難しいことは易しく、易しいことは面白く…」というようなことを、井上ひさし氏が周りの人達に語ってたらしいね!

(松尾くん)松島説は斬新に見えるけど、な~んかしっくりこないですが…

うん、確かに。なんでかな?――
国連のSDGs (Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とか、はやりのESG(環境・社会・統治)投資などと聞くと、ついつい、人は資本主義に(経済学にも)新しさを求めがちなんだよね。だからだと思う。

だけど、それは「新しい資本主義」じゃなくて、当面の資本主義にとっての(古くて)「新しい課題」だろうし、SDGsを踏まえたら「新しい目標」がいいかな?

  ◆ 資本主義の新しい課題(あるいは目標)      新しい資本主義   

この課題を克服した暁には、いわば「古い資本主義」と決別、ハレて2.0の「新しい資本主義」となるのでは。いや、そのときは資本主義自体を、エ?トバスた何ものか(etwas)、かも…。
それって、今ここで考えても、な~んもデンケン(denken出んけん)、いずれ「ポスト資本主義論」のテーマで取り上げたい。

(田中くん)なるほど!先生は、そうした課題を明らかにしたいとの思いで『イゴノミクスの世界』を提起してるんですよね?

その通りやぁ。ぼくは「イゴノミスト」として、大袈裟だけど、私益まみれの「エゴノミクスの世界」をアウフヘーベンしたい(乗り越えたい)気持ちです。渋沢精神に根差した地元群馬の「富岡(製糸場)資本主義」も大好きですよ。

「官営・富岡製糸場」の経営に「日本型市場経済の原型」を見出した拙文も発表(2016年)したりしているくらい。ぼくは地方重視の「地本主義者」でもあるしね!

(ゼミ長)今回は、松島氏の「新しい資本主義」論を見てみましたが、引き続き「現代の資本主義」に関連した本を取り上げませんか?

(先生)うん、いいな。話題になった斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』は、どうですか。今日は取り上げなかった「新しい社会主義」については、この本でも議論されているし。「ピンポーン、パンポーン♪」
おっと「岐路に立つ資本主義」よ、どこへいく!?じゃ~「ケーロ(帰~路)」やぁ…また、来週。

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