【イゴノミクスの世界 Igonomics World 第6局】「遠き昭和のまぶしい時代」、やっぱりアルトいいな、スズキの名車!

イゴノミクス

◆「厚みに近寄るな」!

見るからに強そうな相手には、近づきたくないのが人情。「君子危うきに近寄らず」です。えっ「寄らば大樹」?いいえいいえ、強い勢力の相手に無防備に近づいてはロクなことはありません。

囲碁でいう「厚み」というのは何でしょうか。盤上の石の配置をみたとき、生きている「(強い)石」を「厚み」といい、弱い石とはまだ生きていない石で「薄い」存在です。

黒石でも白石でも、それぞれに「勢力圏」があります。お互いに相手の強い勢力に近づいたり踏み込んでしまうと、痛い反撃にあいます。

ビジネスの世界ですと、「厚み」とは強大な「商圏」。先発の巨大企業の占有するマーケット・シェアです。後発の中小企業がまともな戦いを挑んだら跳ね返されるだけでしょう。

ここで、昨2024年の暮れに逝去されたスズキの鈴木修氏が思い出されます。鈴木氏の社長就任の時(1978年)には、スズキの売上高は3,000億円ほどでしたが、現在では約6兆円にまで伸びています。

鈴木氏は「生涯現役」をモットーに「中小企業のおやじ」と自称していたそうですが、なんといっても街中に溢れる軽自動車の名車「アルト」をご存じない人はいないでしょう。「あると便利な車、アルトです!」の鈴木社長肝いりのフレーズで1979年に初代が発売され、スズキの主力車として大ヒットしました。

鈴木社長は、軽自動車に注力するとともに、インドという有望な新興市場にいち早く乗り出すという二つの戦略に着手。これはトヨタなどの既存の巨大企業との競争を避けつつ、スズキを世界的自動車メーカーに押上げる会心の本手だったのです。

ところで――
◎ はるか『遠き昭和のまぶしい時代』など、小林旭の数あるヒット曲のなかに『自動車ショー歌』(1964年)がありましたが―
 もしも、スズキなら……
「♪ 高速、ギア上げハスラーせて
 エブリイ、毎日乗るけれど
 ワゴンだってアールけれど
やっぱり、アルトはスグレもの!」

こうした経営手法は「ランチェスター戦略」ともいわれますが、イゴノミクスの説く盤上の戦略でもあります。今や、インド自動車市場の約40%を占めるに至ったスズキ。まさしくスズキの世界に誇る「厚み」(勢力圏)です。

次の一手
自らの「厚み」が出来上がると、次はこれをバックに新たな「勢力圏」を築いていく一着となるでしょう。もちろん、自分の強みには自らも近づいてはなりません。「自滅」(「自己競合」による共食い)の危険あり、です。

◎「イゴノミクスの世界」格言と法則
「厚みに近寄るな」
一見、ビジネスの世界は激戦の「レッドオーシャン」ばかり。ベンチャー起業たるもの、強大な相手のいない「ブルーオーシャン」めがけて有利な戦いを進めていきたい。
方向が正しくアルト、成功間違いなし。

参考資料
※ アルトの画像は、スズキのHPから。
※ 鈴木修氏の著書に『俺は、中小企業のおやじ』(日本経済新聞社、2009年)がある。

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